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私、さとえりが日々の広告営業でお会いした方々に月1~3回不定期に配信させていただいている【情報DM】のアーカイブです。

高齢者雇用推進の課題(下)企業に過度の負担避けよ

<ポイント>
○60代前半の男性就業率は驚くべき高水準
○継続雇用導入でも若年層の雇用失われず
○高齢者に特化した職業紹介の充実検討を

 

高齢化の進展に伴い、生産年齢人口の減少による労働力不足や、社会保障財政のさらなる悪化が見込まれている。この解決策の一つとしてしばしば挙げられるのが高齢者の雇用促進だ。就業可能な高齢者の雇用を促進することで労働力不足を補うとともに、高齢者自身の社会保障への依存度を下げる効果もある。「生産年齢人口」の定義自体を広げることにより、高齢化に対抗する戦略ともいえる。

 

まずは日本の現状を確認しよう。2001年以降の60代前半、60代後半、70歳以上の就業率の推移を図に示した。00年代初頭の時点で既に60代前半の就業率は50%を超えていた。06年に施行された改正高年齢者雇用安定法による継続雇用措置導入の義務化の後、60%近くまで急上昇した。08年のリーマン・ショック後にはやや停滞するが、10年代に入って再び上昇に転じ、15年には62%に達している。

 60代後半の就業率も上昇傾向にあり、特に10年代に入ってからの伸びが著しい。これは男女計の数字であり、男性に限れば60代前半で4人に3人、60代後半でも半数が就業している。欧州では60代前半の男性の就業率が2~3割程度の国も珍しくなく、米国でも50%程度であることと比較すると、驚くべき高水準だ。

 00年代半ばに60代前半の就業率が上昇した背景には2つの大きな制度変化がある。まず01年以降、年金支給開始年齢が段階的に引き上げられ、その分働いて収入を得る必要があるため、労働供給が徐々に増えていった。ところが定年退職年齢は60歳のままなので、退職後に年金を満額もらえるまでの期間の雇用機会を確保する必要が生じてきた。

 そこで06年に高年齢者雇用安定法が改正され、65歳(移行措置により1946年生まれは63歳、47~48年生まれは64歳)までの継続雇用措置導入が義務付けられた。さらに13年には、継続雇用措置を希望者全員に適用することを義務付ける改正がなされた。厚生労働省の発表によれば、15年6月現在、60歳定年制企業の定年到達者の8割が継続雇用を希望し、そのほぼ全員が継続雇用されている。

 筆者とカナダ・サイモンフレーザー大学の重岡仁助教授による研究では、06年4月施行の改正高年齢者雇用安定法は、60代前半の男性の就業率を有意に上昇させたことが明らかになった。さらに60代前半の雇用者の増加のほとんどは、従業員規模500人以上の大企業によるものだった。

 企業規模により効果が違うのは、法改正前の60歳以降の就業継続率の違いによる。大企業では00年代半ばまでは60歳で定年退職し、そのまま引退する人が多かった。一方、中小企業ではもともと60歳を過ぎても働き続ける人が大多数を占めていたので、あまり変化の余地がなかったのだ。

 このように高齢者の就業促進政策は順調に成果を上げているが、同時に高齢者ばかり優遇されて若者の雇用機会が奪われているのではないか、という懸念の声が出ている。この点について厳密に検証することは、データの制約などもあり難しい。しかし実は、筆者自身の研究を含めたほとんどの実証分析では、65歳までの継続雇用措置の導入がより若い年齢層の雇用を減らした可能性は低いという結果が出ている。

 その代わり00年代後半に、特に大企業では60歳以上の平均年収が他の年齢層と比べても大きく下がった。このことから、若い社員を減らすのではなく、継続雇用者の賃金を低く設定することで総労働コストを抑えようとしている企業が多いことがうかがえる。

 若い世代の雇用に対して目立った副作用が出ないのは、「継続雇用措置導入の義務化」という比較的緩やかな規制にとどまっているためかもしれない。継続雇用措置導入の義務化に伴い多くの企業が実施したのは、60歳で一度定年退職した後に、再度雇用契約を結ぶ再雇用制度だ。再雇用契約では、定年前とは全く違う仕事内容で大幅に給与を引き下げることが許容されており、同じ契約のまま雇用を継続する「定年延長」に比べると企業側の負担は軽い。

 法律上は、定年延長や定年制の撤廃も継続雇用措置導入とみなされる。しかし厚労省の調査によれば、定年を65歳以上に延長したり定年制度を撤廃したりした企業は、15年6月現在で2割にとどまる。

 また、これまで20代の若手社員がしていた仕事を60代のベテラン社員にやらせるわけにはいかない職場も多いだろう。つまり若年労働者と高齢労働者は必ずしも直接的に代替可能ではないのである。

 代替可能性という点でいえば、むしろ再雇用制度で働く高齢者と、中高年女性のパートタイム労働者の間には代替関係が生じている可能性がある。とはいえ労働市場全体でパートタイム労働者の需給が逼迫している現在では、高齢者が中高年女性の雇用を奪っているというよりは、むしろ人手不足を緩和する一助になっているとみるべきだろう。

 このようにこれまでのところ、日本の高齢者雇用促進政策は大きな副作用をもたらすことなく、一定の成果を上げているようにみえる。ただしこれまでの政策の主なターゲットだった60代前半の就業率は既に6割を超えており、伸びしろはあまり大きくない。

 今後ますます高齢化が進展することを考えると、65歳以上の就業率を上げていく必要が出てくる。だが高齢になるほど体力の個人差が大きくなり、健康上の理由から就業を続けることが困難となるケースが増えてくる。このため、これまでのようにある年齢までの継続雇用を一律に課すアプローチには限界がある。

 雇用政策にあたって本来目指すべきなのは、年齢に関係なく働きたい人が働ける社会であろう。これを突き詰めると、定年制の廃止を含むあらゆる年齢差別の撤廃が必要となってくる。

 とはいえ大企業を中心に年功的な賃金体系が依然として残る現状では、定年延長や定年制の撤廃を無理に推し進めると、勤続年数が長く賃金が上がりきってしまった高齢労働者をいつまでも抱え続けなければならなくなり、企業の収益を大きく損ねかねない。

 90年代後半以降、徐々に賃金体系がフラット化してきてはいるが、既存従業員の賃金を大幅に引き下げることは難しいため、変化には時間がかかる。企業に過度の負担を求める政策は、経済活動の停滞を招き、結果的にはむしろ雇用を減らしてしまうことを忘れてはならない。

 そもそも現時点でも、高年齢者雇用安定法による継続雇用措置義務化の対象は65歳までであるにもかかわらず、60代後半の男性の半数以上は就業している。中小企業の多くは、従業員が定年に達したからといって機械的に退職させるのではなく、本人が以前と同じように働ける間は条件をほとんど変えずに雇用を継続してきた。

 10年代に入って、特に大きな政策変化があったわけでもないのに60代後半の就業率が上昇しているのも、人手不足による労働需要の増加を反映しているものと考えられる。

 今後若年人口が減っていく中で、高齢者を活用したい企業はますます増えていくことが予想される。従って、自発的な高齢者活用を後押しするような政策、例えば高齢者に特化した職業紹介の充実などにより、比較的小さなコストで大きな効果を上げられるのではないかと思われる。